目覚ましは6時ちょうど。それを止めるのは母親の役目だ。

「ほら起きなさい」

息子を揺さぶりながら時間を気にする

「まだ寝れる」

遅刻ギリギリの時間ではあるのだが、朝の恒例行事である。

「礼二はもう起きてるわよ。お兄ちゃんが起きんでどうするの」

「…」

「ほら!起きなさい!高2にもなって!」

「後でちゃんと降りるから…」

そういってモゾモゾと布団にもぐりこむ。

「まったくもう…。ご飯にはそろうようにしなさいよ。」

そういい残して息子の部屋を出る。そのさいに聞こえたイビキは聞かなかったことにする。

「次は、咲ね。」

休むまもなく、隣の部屋をノックする。

「起きてるの!?」

返事はない。

「入るわよ!」

「ちょっと、突然入らないでよ」

電話中なのか、携帯電話をにぎったまま母親をにらむ。

「ノックしたわよ。…起きてるないいわ。ご飯には降りてきなさいね。」

一度も話さなかったドアノブをそのまま握ったままドアを閉める。

今月の携帯電話の請求額で頭が痛いが、ため息でそれを追い出す。

「最後は…」

大きなため息を残しつつ、2階の一番奥の部屋に向かう。

これが最大の難関であることは、もう身にしみついている。

ドアの前に立ち、気合を入れる。

「さて!」

ドアノブに手を掛け、開ける。

その目に映ったのは、我が夫である。

ベッドのそばまで歩いて行き、その体に手を当てる。

力の限り、その体を揺らしながら近所の迷惑にならないギリギリの大きさで叫ぶ。

「朝ですよ!起きてくださいな!」

「…」

この人に比べたら、息子などまだかわいいものだ。

なにせ起きない。

「…しょうがないわね……」

しかし対処法などとっくに見つけている。

それを初めからしないのは、せめてもの慈悲というものだろう。

ため息をつきドアまで歩いていく。

外に顔を出し、階下にむかって声を掛ける。

「テラ!おいで!」

それを合図に、勢いよくリビングから何かが飛び出す。

その勢いを保ったまま、階段を駆け昇り、昇りきったところでドアの方に急旋回。

自分を呼んだ人のそばを高速で通り過ぎ、ベッド向かって一直線に走る。

そして、その上に飛び乗り未だ眠りこけている主人のその大きな鼻を、思い切り噛んだ。

「うわ!!」

さすがにその痛みに耐えかねたか、悲鳴を出し、飛び起きる一家の主。

痛みの原因となった飼い犬と、その先に立っている嫁を認識すると一言。

「…おはよう」

なんとも能天気な人だと、この5分間で幾度目かのため息が出た。