歯車

 昼休憩のこの時間、人が食料を求めてあちこちの建物に出入りしている。それを待ち構えていたかのように、多くの出店がメインストリートの両側を埋める。

 マクラ王国の工業都市ニルグ。世界でも有数である消費量の多さを誇るこの国のほぼ全ての工業品がここで生産されている。眠らない街、というのは普通、繁華街を指すものなんだろうけど、この街は文字通り眠らない。それは、ボクたち機械人形が多く存在するからだ。

 機械でできたこの身体にはメンテナンス以外で休みはいらない。

 不眠不休で働き、人にこなせない仕事を軽々とこなす機械人形は、たまにメンテナンス代を出すだけなので、企業がこぞって欲しがり、この街にそのほとんどをおいた。

もっとも、まずは機械人形を買い取れるだけの経済力がないとだめなんだけど、逆に言えば、その経済力があるということはそれだけ仕事も多いということ。

こうして買出しに出てきている人ごみのあいまに、ぽつりぽつりと見える量の三倍はいるだろう。

――たぶんあれらが今ここを歩いている理由は僕と同じなんだろう。

その黙々と前を向いて歩く姿は皆似通っていて、不思議と後姿まで全部一緒に見える。実際は金属や木とかの材質、出力が重点的に出る部位とかの構造が違うからそんなはずはないんだけど、少なくても人のようにそれぞれ違うようには見えない。

 そして、ボクもその一員であることに気が付いた。

 店の間をぬって小道へと退く。建物の壁を背にもたれかかり、どんよりとした雲が覆う空に目をやった。

 それと同時に自分の取っている行動に驚く。

 ボクは今、なにをしようとしているのか。メンテナンス工場に行く、ただそれだけのはずだ。それが今、こうして足を止めて空なんか見上げて。ボクは今、なにかを考えようとしていた……のかな?――なにについて?

 ボーっと空を見上げながら、次から次へとわいてくる疑問に何一つ答えられないでいると、今ボクが来た逆の方向からけっこうな速さでこちらに近づいてくる生体反応を感知した。

 とっさのことで、なにも判断ができないでいるとみるみるうちにそれはボクとの距離をつめて、目視できるようになった。それの正体はなんと小さい女の子。その事実がボクを余計混乱させて、その場に棒立ちになる。

 どんどん近づいてくる。

 どんどん。

 どんどん。

 下を向いて走っていた女の子は顔を上げた先にボクがいることに驚いた様子だったけれど、もうブレーキも利かない。結果、衝突したボクと彼女は後ろに倒れこんだ。

ちょっとだけ、ようやく雲が切れだした空を眺めてから、ボクの身体の上でうつ伏せになっている女の子を見た。大丈夫だろうか。

とっさに後ろに飛びのいたからまともな激突は避けられたけど、ぎっしり機械の詰まったこの身体は、手を伸ばせば届く距離にある壁とそう変わらない。

 手首で脈を取ろうとすると、女の子は微かに唸った。

「マ……、ロ」

 脳震盪をおこしたのか、気を失ってしまった。

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